ピロリ菌はなぜ胃がんにつながるのか?検査・除菌・除菌後にやること
ピロリ菌は強い胃酸の中でも生き続け、慢性胃炎や胃がんの原因になります。感染の大半は乳幼児期で、成人になってからはまれです。尿素呼気試験など検査の選び方、7日間の除菌治療の進め方、保険が使える条件、そして除菌に成功したあとも内視鏡検査を続けるべき理由まで整理しました。

健康診断で「ピロリ菌がいます」と言われても、痛くも痒くもないので後回しにしてしまう——よくある話です。ただ国立がん研究センターは、胃がんの発生要因としてピロリ菌の感染と喫煙を挙げています。日本ヘリコバクター学会によれば、日本で感染している人は少なくとも3,000万人以上、特に50歳以上で割合が高いとされています。では、なぜ胃の中の細菌ひとつが胃がんにつながるのでしょうか。そして家族に胃がんの人がいる場合、何をすればいいのでしょうか。
ピロリ菌はなぜ強い胃酸の中で生きられるのか
ピロリ菌は正式にはヘリコバクター・ピロリという細菌で、胃の中に生息しています。ふつうの細菌なら胃酸で死んでしまいますが、この菌はアルカリ性のアンモニアを作り出して周囲を中和するため、強い酸性の胃の中でも生き続けられます。1983年にこの菌の培養に初めて成功したウォーレンとマーシャルが、のちにノーベル賞を受けたのもこの発見の重さゆえです。
問題は、住み着いたあとに起こることです。多くの研究により、ピロリ菌が慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がんなどの原因になっていることがわかっています。自覚症状がないまま炎症が何年も続き、粘膜が痩せていく——その静けさこそが厄介なところです。国立がん研究センターも、胃がんは早期の段階では自覚症状がほとんどなく、かなり進行しても症状がない場合があると説明しています。
感染はいつ起きているのか
ここは誤解が多いところです。日本ヘリコバクター学会の説明では、ピロリ菌は口から感染し、とくに感染しやすいのは乳幼児期とされています。ヒトからヒトへの経口感染に加え、環境因子や家庭内感染など、いくつかの感染経路が考えられています。そして重要なのは、成人になってからの感染はまれだという点です。
逆にいえば、今の子どもたちの感染率は非常に低くなっています。親世代の感染率が下がり、衛生環境も良くなったためで、今後さらに減っていくと予想されています。つまり、いま感染が見つかる人の多くは、何十年も前に受け取ったものを持ち続けているということになります。家族に感染者が固まりやすいのも、この時間差が理由のひとつです。
うわさで判断しない — 検査と除菌でできること
「胃に良い食べ物」を探す前に、はっきりした手順があります。まず検査です。日本ヘリコバクター学会が挙げる方法は次のとおりで、それぞれ得意なことが違います。
- 尿素呼気試験 — 診断薬の服用前後の呼気を調べる方法。最も精度が高く、感染診断にも除菌後の判定にも推奨されています。
- 便中抗原検査 — 便からいまの感染の有無を調べる精度の高い方法で、除菌判定にも有用です。
- 血液または尿中の抗体検査 — 簡便で広く使われますが、除菌が成功したあとも陽性が続くことがあるため注意が必要です。
- 内視鏡で粘膜を採取する方法 — 鏡検法、迅速ウレアーゼ法、培養法があります。
どの検査も100%正しいとは限らないため、検査の選び方や結果の読み方は医師に確認してください。なお保険の扱いも決まっていて、2013年2月から、内視鏡検査で「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」と診断された人は保険を使って検査・治療を受けられるようになっています。
陽性なら除菌治療に進みます。通常は3種類の薬を朝夕2回、7日間服用します(一次除菌)。胃酸の分泌を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬またはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー)と、アモキシシリン・クラリスロマイシンという2種類の抗生物質の組み合わせです。飲み終えてから4週間以上あけて、尿素呼気試験や便中抗原検査で判定します。ここで約70〜90%の方が成功します。失敗しても二次除菌があり、抗生物質を変えて同じく7日間服用すると約80〜90%が成功します。
注意点も学会がはっきり示しています。飲み忘れや自己判断での減薬は失敗率を上げ、抗生物質が効かない耐性菌を作ってしまう可能性があります。ペニシリンアレルギーを指摘されたことがある方、ほかに服用中の薬がある方は、飲み始める前に必ず医師に伝えてください。二次除菌の服用期間中はアルコールを飲めません。副作用は下痢・軟便が約10〜30%、味覚異常が5〜15%に起こりますが、いずれも一時的なものと考えられています。
除菌したあとに何が変わるのか
除菌の効果はきちんと数字で示されています。日本ヘリコバクター学会によれば、除菌によって胃がんの発生・再発が半数から3分の1に減少し、胃・十二指腸潰瘍の再発はほぼ抑えられます。早期胃がんに内視鏡治療を受けた方では、別の部位にできる新しい胃がんの発生率が3分の1に減ったと報告されています。次の世代への感染を防ぐ意味もあります。
ただし、ここが肝心です。除菌しても胃がんのリスクはゼロにはなりません。国立がん研究センターも学会も、除菌が成功したあとでも胃がんが見つかることがあるため、定期的に胃の内視鏡検査や胃がん検診を受けるよう繰り返し呼びかけています。除菌後に胸やけ(逆流性食道炎)が出ることもありますが、多くは一時的です。
生活習慣の側も同じ方向を向いています。国立がん研究センターは胃がんの発生要因としてピロリ菌感染と喫煙を挙げ、食塩・高塩分食品の摂取が危険性を高めると報告しています。禁煙と、塩分・高塩分食品の取りすぎに注意することが予防として挙げられており、野菜や果物の摂取は胃がん予防に効果的である可能性が報告されています。
検診の目安と、待ってはいけない症状
厚生労働省の指針にもとづく胃がん検診の対象は、男女ともに50歳以上、2年に1回です。内容は問診と、胃部X線検査(バリウム検査)または胃内視鏡検査(胃カメラ)。当分の間、胃部X線検査は40歳以上を対象に1年に一度実施してもよいとされています。結果が「要精密検査」となった場合は、必ず精密検査を受けてください。
ただし検診は症状がない人に行うものです。国立がん研究センターは、胃の痛み・不快感、胸やけ、吐き気、食欲不振などが胃がんの代表的な症状としつつ、これらは胃炎や胃潰瘍でも起こるとしています。そのうえで、食事がつかえる、体重が減るといった症状がある場合は進行胃がんの可能性もあるため、検診を待たずに内科や消化器内科を受診するよう明記しています。出血による貧血や黒い便も同じです。除菌治療中に発熱や腹痛をともなうひどい下痢、便に血がまじる、ひどい皮膚の異常が出た場合は、薬をやめてすぐ医師に相談してください。突然の激しい腹痛や大量の吐血・下血があるときは、迷わず119番です。
除菌すれば、胃がんの心配は消えるのか
いちばん覚えて帰っていただきたいのは、この一点です——除菌に成功しても、定期的な胃の内視鏡検査はやめないでください。除菌で胃がんの発生・再発は半数から3分の1に減りますが、ゼロにはなりません。家族に胃がんの人がいる方、長く胃の不調が続いている方は、まず主治医にピロリ菌の検査について相談するところから始めてみてください。この記事は一般的な健康情報であり、診断や治療の判断は医療機関で受けてください。
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