慢性膵炎はなぜ元に戻らない?背中に抜ける痛みと脂肪便のサイン
みぞおちから背中に抜ける痛み、便器に油が浮く脂肪便。慢性膵炎は膵臓の細胞が線維組織に置き換わる病気で、痛みが軽くなる時期にかえって進行していることがあります。硬くなる仕組みと、断酒・禁煙から主食の選び方まで、膵臓の負担を減らす習慣を日本の公的資料をもとにまとめました。

みぞおちのあたりが痛くて、その痛みが背中にまで抜ける。食後に強くなる。しかも便器のなかに油が浮くような便が出る——この組み合わせが続いているなら、胃ではなく膵臓を疑う場面かもしれません。日本消化器病学会と日本膵臓学会が編集した患者向けガイドは、慢性膵炎について「徐々に進行する病気で、基本的に完治することはありません」とはっきり書いています。だからこそ、進み方の順序と、いま止められる部分を知っておく意味があります。
なぜ膵臓は少しずつ硬くなっていくのか
膵臓は、食べ物を消化する膵液(消化酵素)をつくって十二指腸に送る一方で、インスリンなどのホルモンを出して血糖を調整しています。慢性膵炎では、その膵液が膵臓自身を溶かす急性膵炎が繰り返し起こり、正常な細胞が少しずつ壊れていきます。壊れたところは線維組織に置き換わって硬くなり(線維化)、膵臓のなかに膵石ができることもあります。
原因として最も多いのは長期間にわたる多量の飲酒で、同ガイドによれば男性では8割、女性でも4割近くがアルコール性です。次に多いのは原因がよくわからないもので、女性では半数以上を占めます。発症は40〜50歳代が多く、腹痛はお酒を飲んだあとや脂肪分をとりすぎたときに引き起こされやすい、という特徴もあります。
痛みが軽くなったころに出てくる脂肪便と糖尿病
慢性膵炎は「潜在期」「代償期」「移行期」「非代償期」に分けて考えられます。代償期では膵臓の働きがまだ保たれていて、腹痛の発作を繰り返します。ところが移行期に入ると膵臓の働きが徐々に衰え、痛みはしだいに軽くなっていきます。ここが誤解されやすいところで、痛みが減ったことは回復のサインではありません。
非代償期になると、消化酵素が足りず脂肪の消化吸収が悪くなり、下痢や脂肪便(便器のなかに油が浮くような便)が出るようになります。栄養を十分に吸収できないので体重も減ります。さらに進むとインスリンが出なくなって糖尿病を発症し、慢性膵炎が進行すると膵臓がんになる確率も増加します。一般的に5〜15年の時間をかけて少しずつ進むとされ、はじめから腹痛をまったく感じないまま進行する人もいます。
ここを変えると膵臓の負担はどう変わるか
- 断酒と禁煙は「治療」そのもの — 同ガイドは、断酒と禁煙が腹痛の消失に有効で予後改善のためにも勧められる、と明記しています。喫煙は進行を早めるだけでなく膵臓がん発生のリスクも高めます。やめられない場合は専門医療機関の受診、抗酒薬・断酒補助薬、断酒会という選択肢が用意されています。
- 果糖を含む加工食品とジュースを減らすと中性脂肪が下がる — 日本動脈硬化学会の『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』は、果糖を含む加工食品の摂取量を減らすことでトリグリセライド(中性脂肪)の低下が期待できるとして、その摂取を減らすことを推奨しています(推奨レベルA)。果物そのものは1日200g程度を目安に、缶詰やジュースではなくフレッシュなものを選ぶ形です。
- 主食を未精製穀類に寄せると血中脂質が改善する — 厚生労働省の生活習慣病情報でも、五分づき米や玄米などの精製度が低い穀類は食物繊維に加えてビタミンB1やマグネシウムもとれるとして推奨されています。野菜は1日350g以上、魚のn-3系脂肪酸は高トリグリセライド血症の改善が期待できるとされています。
- 食べ方そのものも負担を左右する — 患者向けガイドが挙げる日常の注意点は、油ものをとりすぎない、辛いものをとりすぎない、便秘にさせない、脱水に気をつける、よくかんでゆっくり食べる、ストレスを避ける、規則正しい生活、の7つに断酒・禁煙を加えた9項目です。よくかんでゆっくり食べるだけでも一度に流れ込む量は変わります。
大事なのは、脂肪を一律に減らせばいいという話ではない点です。同ガイドは、痛みなどの症状がない場合はむしろ脂肪をとるように推奨しており(1日40〜70g、日本人の平均は約60g)、長期の過剰な脂肪制限は低栄養につながると注意しています。どこまで制限するかは病期によって違うので、自己判断ではなく主治医と決める部分です。
受診の目安
この記事は一般的な健康情報であり、診断や治療の代わりにはなりません。みぞおちから背中に抜ける強い痛みが続く、食後に必ず痛くなる、脂肪便や原因のはっきりしない体重減少がある——こうした状態が当てはまるなら、様子を見るより消化器内科で相談したほうが早いです。慢性膵炎の診断には腹部CTやMRI(MRCP)、超音波内視鏡などが使われ、血液検査だけでは判断できません。
また、早期(潜在期)のうちに適切な治療を受けることで、進行が止まったり改善することがあるとも同ガイドは書いています。痛みが軽いうちに気をつけられれば、膵臓の機能が保たれ、膵臓がんを発症する危険も少なくなるとされています。
最初に手をつけるのはお酒です
ここまでいくつも挙げましたが、優先順位ははっきりしています。まず手をつけるべきはお酒です。慢性膵炎の約7割はお酒が原因とされ、断酒は痛みそのものにも予後にも効く、この病気で数少ない「効くとわかっている手段」だからです。飲む量を減らすところからでも、今日から始められます。
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